自動車保険に関する一考察(過失割合の低い側の視点から)

過失割合の高い側 過失割合の低い側
双方の損害額計 50
保険会社の考えた
過失割合の相場
80% 20%
当事者 A B
代理人(損保会社) A1 B1

事故の当事者となった場合、通常は任意保険と呼ばれる損害保険に加入しているので、示談交渉は保険会社を通して行われる。当事者はプリンシパル、損保会社はエージェントである。常識的に見て損保会社はプリンシパルのためのエージェントとして努力してくれるはずだが、金銭の動きに着目すると必ずしもそうとは言えないことが見えてきた。このページではこのあたりについて物損事故で考えてみる。

例えば上表のケースで、損保会社の考える過失割合に基づいて単純に考えると、代理人A1が支払う保険金が40万円、代理人B1が支払う保険金が10万円である。ただし、事故を起こすと保険の等級(割引率)が3年間にわたって3等級下がるため、A、Bともに今後3年間はそれまでに比べて割高な保険料を納めることになる。それを回避するために保険を使わないという選択をするケースもある。特にBの場合は10万円という微妙な金額なので、「自腹で払う」か「保険料アップを受け入れて保険を使う」かということを天秤に掛ける状況であろう。そして、事故後の示談にあたっては過失割合について双方ともに納得しづらいわけだが、基本的にはそれぞれのエージェントを通じて決着をつけていくことになる。
このような場面で、Bの代理人であるB1がBの過失割合を下げる努力をする動機を持ち合わせているのかどうか、というのが本稿の指摘したいポイントである。ちなみに、A1の立場からすると保険金の支払額が今後の保険料収入の増額よりも大きいため、なるべくA1の負担額を減らす努力をすることになる。つまり過失割合について、より低いと主張する方向に動機づけられている。問題はB1についてである。

さて、過失割合についてBがより低いものと主張したい場合、B1がそれを助けてくれるのかどうか。B, B1ともに金銭のみに動機づけられているという条件付きで、この状況を以下の表に基づいて検討しよう。

表1:双方の保険会社が提示した示談案 80:20

Bが保険を使う Bが保険を使わない
Bのキャッシュフロー B1のキャッシュフロー Bのキャッシュフロー B1のキャッシュフロー
事故に関する支払 0 -10 -10 0
保険料のアップ -10 +10 0 0
個人別キャッシュフロー合計 -10 0 -10 0

Bにとっては、保険を使った場合は等級ダウンするので割引率が下がり、支払保険料のアップにより[ -10 ]、保険を使わない場合は支払保険料は変化しないが自腹での支払が[ -10 ]となる。
B1にとっては、保険金を支払う場合であってもBが等級ダウンすることで割引率が下がり、受取保険料が追加されるので、Bが保険を使うか否かに関係なく[ 0 ]である。

表2:過失割合を90:10に低める努力をBがB1に依頼する場合

Bが保険を使う Bが保険を使わない
Bのキャッシュフロー B1のキャッシュフロー Bのキャッシュフロー B1のキャッシュフロー
事故に関する支払 0 -5 -5 0
保険料のアップ -10 +10 0 0
交渉の追加の手間 0 0
個人別キャッシュフロー合計 -10 +5-α -5 0-α

この表では、当初の示談案に追加して交渉が必要になったために生じる手間について[ -α ]と置いた(時間や手間がかかる=コストがかかる)。またBにとってのよい選択およびB1にとってのよい選択に色を付けてみた。
Bの立場からみれば保険金の支払を受けた場合はCFが[ -10 ]、支払を受けない場合は[ -5 ]なので、これでは保険を使わない選択をするであろう。
またB1から見た場合、Bに保険を使ってもらい[ +5+α ]にしたいところではあるが、Bが[ -10 ]ではなく[ -5 ]を選択をすることはB1の立場から見ても明白である。この場合B1にとっては交渉の手間だけが増えてCFは増えない[ 0-α ]のような格好になる。わざわざ[ -α ]を負担してまで代理交渉をする動機はない。
このように、表1と表2とを比較してみると、B1が過失割合を低める努力をしてくれるのかというと必ずしもそうではないことが見えてくる。

表3:過失割合を100:0に低める努力をB側がしたい場合

Bさんのキャッシュフロー B1のキャッシュフロー
事故に関する支払 0 0
保険料のアップ 0 0
交渉の追加の手間 0
個人別キャッシュフロー合計 0-α 0

そもそも過失割合100:0の交渉となると、Bの代理人である損保会社B1は請け負ってくれない。というのもそれは意地悪からではなく、それをやると非弁行為にあたるらしく、弁護士法違反であるためである。そのため、100:0で交渉する場合はB1は関与できず、追加作業の手間(コスト)は発生しない。その代わりにB本人に追加作業の手間(コスト)がかかる。また、100:0で決着できた場合はB1が保険金を払う必要は生じない。その上で両者の行動を考える。
過失割合100:0の合意が得られれば、Bにとっては[ α ]の大きさ次第ではあるがメリットの大きい状況となるため、Bにとっては過失割合を下げる努力をしたい。しかしB1にとって金銭的には当初の示談案と特に変化がない。B1の立場からすれば当然「やりたければお好きにどうぞ」ということになる。

本稿には損害保険会社の立場を否定する意図はない。個々の事故に直接的に関わる金銭的なメリット、デメリットだけで行動を決めているとは考えづらいし、考えたくない。ただ、保険会社が契約者の立場に立って考えたとしても、金銭面から見てこのような構造になる制度設計自体には疑問を感じる。
なお、表3での[ α ]を下げることが可能な方法として弁護士費用特約が考えられる。B自身が交渉の手間を負う代わりに弁護士に代行してもらい、その費用を保険でまかなうという方法になる。弁護士費用特約を行使しても等級ダウンはしないようだから個人負担の[ α ]はある程度抑えることができる。もちろん特約の分だけ保険料はアップしているので、そのあたりをどう天秤に掛けるかということだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。