確か大学生だった頃、工事現場に掲げられた「KY活動の徹底」というスローガンを見て、「?」と思ったのですが、KYというのは危険予知。随分とベタな用語で、今なら「空気読め」って感じかもしれません。そして、ヒヤリハットというのも当時「?」と思っていたわけで。まさかそれらが研究上関わってこようとは思いもしませんでした。
そう、今月は結構飛行機に乗ります。ま、表向きには平然と乗っているわけですが、実際のところは色んなことを気にしながら乗ってます。このところ飛行機に関連した安全に過度の注目が集まっているようにも思いますが、うーん、実際の映像を見ることができたりするだけに、ヒヤリハットどころじゃないようなものも目にします。
佐賀空港のB737の映像。速度計の表示に相違があった、ということなんですが、いくら何でも、過走帯まで行かなくても・・・。左右の速度計に相応の差が出ていたなら、タクシング中に既に異常が見えると思うわけで、その時点で引き返す、というのを頭の中の選択肢に入れているはずなんですが。初めてあのシーンを見たときには、Flight Simulatorの経験から「スラット&フラップを出し忘れてたんじゃないの?」とも疑いましたが、よく見るとスラットは出ているし。乗客ゼロだというし、積んでいた荷物もせいぜい修理用品だろうから、普通なら滑走路の半分までで上がっていておかしくない。長い間駐機させていたから、筒の中に雲の巣でも張ったのかなあ。
そして昨日のニュースで知ったのが、伊丹への着陸滑走路の取り違え。旅客機の地上とのやり取りは無線。そして飛んでしまうと、やりとりのほとんどが文字ベースではなく、音声。ここには伝言ゲームのような、間違いが入りこむ可能性があるわけで、ヒューマン・エラーの話でもよく触れられる。瞬間、瞬間の判断をやり取りするのに、文字ベースというのは難しい現状でしょうから、音声で如何に誤解を生むことなく交信するか、ということに十分な配慮がなされているはず。そして、十分に聞きとれていることであっても、不安を感じたら「Confirm ・・・?」という形で再確認しているシーンによく出くわす。
羽田なんかでは、16L着陸の状態の時に、地上の都合で急きょ16Rに切り替え、なんてこともあります。そんな場合はかなり念入りに「今から16Rに着陸滑走路を変更してもいいか?」とか確認してから16Rの着陸許可を出したり、Rightの発音を「イタリア人か?」というぐらいに強調したり。今回の場合、当たり前、とか思いこみ、が、起きていたとしたら怖いわけです。
伊丹でA320の着陸というと、基本は32R(Three Two Right:A滑走路)で、何かの都合で32Lに(Three Two Left:B滑走路)になることもある状況。「都合」というのは、航空機側の都合だったり、地上側の都合だったり、まちまちですが、RightとLeftだと確かに言い違え、聞き違えというのもあり得るかなあ、と。
そして、危険への道筋、という意味では、今回の問題は、離陸待ちのJAL機のコックピットで「Right side Clear」「Left side Clear」という単純な確認が、単に形式としてではなく、実質の意味のある安全確認作業として行われたことで、事故へのパスから逃れられたように思う。
空の世界では、事故が起きないように何重にもこういう分岐点が用意されているわけで、その分岐点を事故の側にスルスルっとすり抜けて来ていた。「全日空機は着陸3分前に、管制官にB滑走路(32L)への最終進入を報告した」とあるわけで、おそらくRightとLeftの言い間違い。これが危険への道筋の具体的なきっかけと言えると思います。それまでパイロットは32Rという当たり前の選択肢で飛んでいたのに口をついて出てしまったのでしょうか。この時にマジ?ということで管制官が「Confirm」しておけば危険への道からは逸れることができた。そして「管制官は全日空機がB滑走路(32L)への着陸を要求したと思い込み、(32Lへの)着陸許可を出した」という。これもかなり危険へと導いているわけですが、それに対してパイロットは32Rで復唱したというから、パイロット側ではこの時に聞き逃しも発生している。
空の世界で、お互いの配慮から例えば着陸滑走路の変更をリクエストしていると思われるケースがある。今回のケースの背景には、そういう配慮を勝手に想定してしまった可能性もある(32Rに離陸待ちする飛行機がいるなら32Lにチェンジしてあげよう、と配慮したと想定)。
また、些細な言い間違いを指摘しないということも危険への道に乗ってしまう原因。「おいおい、違うだろ」ということについて、日常の中で些細なことを指摘すると「厭味な奴」となってしまうことも多いけれど、それを正さないと事故の遠因になるってことです。人に対する「優しさ」というのは、「寛大、寛容」から生まれる面もあるんでしょうが、仕事上は「厳しさ」こそ優しさである場合も結構あるわけです。
ま、言い間違い、聞き間違いというのはどうしても時々発生するわけで、私自身、講義中に「ハッ」と我に返って、つい直前の発言や板書を取り消すことがある。もしこれに気付かなければ、そして指摘されなければ間違ったまま…ということ。怖い話です。勇気を持って指摘してくれる学生さんには感謝してます。そういう意味では、学生さんからケータイで「質問・感想・意見」を送ってもらうと、ちょっと気になったことでも知らせてもらえるので、意外なところで役に立ってます。
「簿記の『簿』の字、右側の点が抜けてる!」という指摘。確かに板書ではいつも書いてなかったなあ。無意識というのは怖いものです。